平成のシンデレラ



「ったく・・・猫の子か犬っころ、だな」
「えへへ。そんなにカワイイかな~~?」
「バーカ、余計なものを拾ったって事だ」
「アハハ。たしかにね~~」
「オマエな、そういう事をあっさり認めるなよ」
「だってホントの事だもーん。私ってば捨てられちゃったからさ~~」
「どっちかっていうとお前が野崎を捨てたように見えたがな」
「違う違う~ 青年はさっき道で私を助けようとしただけ~」
「助ける?」
「私がね道路を渡ろうとしたら、自殺するって思っちゃったらしくて~」


あんな二股男のために死ぬわけないのにさ~と
私は天井に向かって吐き出すように呟いた。


「そういう事か」と彼が小さくついた溜息が私の前髪を揺らした。


「愚かだな」
「え?」
「たかが男で自棄になるなんて愚かとしか言いようがない」
「・・・」
「世の中には男も女も星の数ほどいるんだ。
それこそ犬も歩けば、くらいにな。ダメだったら他を探せばいい。
恋愛なんてのはそれだけのことだ」

「それだけって・・・」


男性は女性ほど感傷的ではないというけれど
それにしても何と言う割り切りの良さだろうか。
超前向き思考とでも言うのか。


「違うのか?ならお前はこの先一生男と付き合わないつもりか?」


そんなことは誰も言ってはいない。
ついでに言っておくけれど、尼僧になるつもりもない。
一生男と付き合わないなんて、いくらなんでも話が飛躍し過ぎだ。
この人の中では0か100かの極端である意味潔い選択肢しか
ないのだろうか?とさえ思ってしまう。


「なんでそうなるのよぅ~」


しかしどうしてこんな見ず知らずの男に
ここまで言われなきゃならないのだろうか。
そう思ったら、段々腹がたってきた。


「ひ、人の事何も知らないくせに好き勝手言ってくれちゃって」
「ああ、お前の事なんざ知らねえよ。別に知りたくもないしな」
「ひっどーい・・・」
「本当の事を言ったまでだ」


男はククっと小さな嘲笑を浮かべてグラスを傾げた。


「ついでにもう一つ言ってやる。
こんなところで酔っ払ってウダウダ言ってるのは時間の無駄だ。
そんなヒマがあったらもっと自分を磨け」


なんて憎たらしい言い様!
けれど・・・蔑む言葉の割りには口調も眼差しも 
どこか柔らかで温かな印象だと感じたのは私がひどく酔っていたせいだろうか。


「そんな事は分かってるけど、仕方ないじゃない。
頭で理解はできても感情は別なのよ」

「まあ・・・ それも分からなくはないけどな」


薄く笑いながらグラスを揺らす手元を見つめる男の眼差しがふと和らいだ。



「アナタって善い人なのか、ヤな奴なのかわからない」
「ヤな奴で結構。酔っ払い女に善い人呼ばわりされても嬉しくないからな」



「やっぱりヤな奴!」と頬を膨らませた私に男は声を上げて笑いながら
グラスを滑らせ、私の分まで追加のオーダーをした。


「ホラ、飲めよ」
「あぁ・・・ありがと」
「日付が変わるまではつき合ってやる」


乾杯、と小さく掲げたグラスと共に合わせた視線に感じた「何か」に
急に胸が騒ぎだした。
射抜かれてしまうような強い視線には恐れすら感じて、とても落ち着かないのに
見つめられるのが悪くないこの気持ちは何?



「どうした?」



ああ・・・分かった。
この人の、この眼差しの強さは自信の表れなんだ。
ポジティブでアグレッシブな生き方そのものが溢れているんだ。
本気で生きている男の眼とはこういうものかもしれない。


なんて魅力的なのだろう。



グラスに口も付けず、じっと自分を見つめる私を訝しげに伺いながら
「眠くなったか?」と問う男の声がひどく柔らかく、甘く響く。
身体の奥を煽るような擽るような・・・声。


「・・・って」
「ん?」
「日付が変わっても つき合って」


カラン、と男の手の中のグラスの氷が鳴った。


「止めとけ」
「お願い」
「オマエ、自分が何を言ってるのか分かってるか?」
「うん・・・」


酔っていても、今自分が何を言っていて
どうしようとしているのかくらいは分かる。
私はこの人の強さと熱に直に触れたい。
たとえそれが一夜限りの戯れだとしても構わない。


男はふぅと小さく息をついてグラスを置くと私に肩を寄せた。


「逃げるなよ?」


耳元に囁いた彼の吐息が、熱い。