「別にいないですけど……」



「いない?? 本当に?? マジかぁ~~♪」



あたしのひと言に、ガッツポーズで喜んだ。



「よかったぁ。これでマジで気合い入った!! 実はさぁ、俺、彩城さんのこと、ずっといいなぁって思っててさぁ」 



そして、これ以上ないほどの満面の笑みを見せた。



「悪いけど、あたし……あなたのこと、名前も知りませんけど……」



あたしの素っ気ない言葉にも笑顔のまま。



「あ、俺は皆元裕也。名字は呼びにくいだろうから、ミナトって呼んでよ。みんなそう呼ぶし。学年は3年だから、彩城さんのひとつ上!! とりあえず、よろしくっ、月魅ちゃん♪」



「はぁ……用件はそれだけですか?? それじゃあ、もう行きますんで……」



「えっ、ちょっ……と待ってよ!!」



すぐにその場から、立ち去ろうとするあたしに、



「違う、違う!! 1番大事なこと……。よかったら、俺と……付き合ってほしいんだ」



そう言いながら、さっと、あたしの両手を握った。



「あたし、付き合う気はありませんし、あなたに興味もありません!! っていうか、手を放してください」



「あなたじゃなくて、ミナトだよ、ミナト♪」



「そんなのどうでもいいです!! 失礼しますっ」



あたしは、握られていた手を、勢いよく突き放すようにして、



さっさと、ミナトを置いて歩き出した。