「陣痛が始まったあの日の夜はね、産院の窓から見えた月がとても輝いていたのよ」



陣痛の痛みはママの想像を遥かに超えていた。



「ママはね、難産だったのよ」



次々、押し寄せる気が遠くなるような痛みの波。



そんなママを見て、ただ励ますしかできないパパは、



痛みに耐えるママの気を紛らせてあげようと、窓を開けた。



と、同時に部屋の中に入ってくる心地いい風。



窓から夜空を見上げると、ママをまるで見守るかのように、



静かに優しく、明るい光を放つ月が見えた。



「ママはね、陣痛の痛みに必死に耐えながら、その月を見て……あなたの名前を決めたのよ」



町はずれの小さな産婦人科。



人当たりもよく、近所でも評判の朗らかな笑顔が印象的な先生。



決して最新式の設備があるわけじゃないけど、



そのアットホームな雰囲気がママはとても気に入っていたんだって。



「月魅の名前って、ママがつけたんだぁ」



月の綺麗な夜に生まれたから“月魅”



「そうよ。いい名前でしょ??」