密恋~貴方に触れたくて~

それでも、ついつい助けを求めてしまう

あと少しの我慢

そう自分に言い聞かして、再び俯いた私はギュッと鞄を握り締めた


「おっさん
 何やってんの?」


そんな声と共に私を触っていた手が身体から離れ、私は驚きで思わず俯いていた顔を上げて見ると、40代位の男性の手を掴んで睨んでいる桐生先輩の姿が目に飛び込んで来た

えっ?

な、何で先輩が?

な、何が起きているの?

あまりに突然の事に、私は頭が混乱してしまった


「何やってんのか聞いてんだけど‥‥」

「な、何を言っているんだ!!
 私は何も‥‥」

「何もしてないってか?
 この手で、何もしてねぇ~ってこの娘に言えんの?」

「言い掛かりはやめたまえ
 失敬だぞ
 もしかして、君がこの娘に痴漢を働いていたんじゃないのか?」


ザワザワする車内

一気に注目を浴びているのが分かる


「こ、この人が痴漢です
 足に触った時に、確かに指輪の感触がありました」


自分でも信じられなかった

まさか自分から痴漢されていたなんて言えるなんて‥‥


「おっさん、確かに指輪してんじゃん
 これでも痴漢してないって言い逃れする気なのかよ」

「わ、私はしてない
 指輪‥‥、指輪をしてるって事は結婚しているって事だろ?
 妻や子供が居るのに、痴漢なんてする訳がないじゃないか!!
 君も変な言い掛かりは止めたまえ!!」


きっぱりと否定する男性

しかも、言い掛かりは止めろと睨まれてしまった

確かに指輪をしている人だって、触られた時に感触があった

でも、私は犯人を見た訳ではない

奥さんやお子さんの居る人が痴漢なんてしないよ‥‥ね


「確かに、コイツが触っていたのを、俺も見ていたよ」


えっ?

あの人‥‥

さっきは関わりたくないって感じで、私から目を逸らしたのに‥‥


「ごめんね
 助けてって言ったのに、助けてあげられなくて‥‥」


まだ20代のサラリーマンっぽい男性が私に謝ってくれて、私は涙が溢れそうになりながら顔を横に振りながら、お礼の気持ちを込めて頭を下げた

その後、サラリーマンっぽい男性と桐生先輩に両サイドを押さえられ、私に痴漢をした男性が駅に降りたので、私も一緒に駅に下車して着いていった

痴漢した男性は、離せとか冤罪だと騒いでいたが、駅員と警察官に突き出されると痴漢行為を呆気なく認めたのだった

しかも、痴漢の常習犯だったらしい