「やり過ぎだよ、淋」
哀しそうな声音がして、ピタリと彼女の動きが止まる。
「…イチイ…様……」
空木が声がした方を見て、言い、その顔には「何故あなたが淋の名を知っているんだろう」と、書かれているようで、少し訝しい表情を浮かべていた。
「淋が手を汚す必要は、どこにもないんだ」
そう言う彼は黒い羽織を着て、帯は薄い青で白い着流しだった。
白。
しろ。
シロ。
白鬼。
言葉を操る鬼。
「刈人が出てきた時点で俺が来ればよかった」
彼はもどかしそうにそう呟き、目が虚ろになっていて、目を落としている彼女の肩に手を置く。
「淋がそこまでする必要はないよ。怒る必要もない。暫く体を休めて」
まるで、喚いている子供をなだめているかのようだった。
――名を呼ばれた者は従いざるを得ない
前に淋に教えてもらった言葉が、響く。


