「なん…だ…と……」


それを聞いて、淋は驚愕したような表情を浮かべた。


そして直ぐに背を向け、この部屋から出て行こうとする。


要のところへ行くのだろう。


「話はまだ終わってねぇ」


サッと、俺が行くよりも早く花桂樹が淋の目の前に立ち、彼女の行く手を阻んだ。


「邪魔だ」


「抑えろ馬鹿」


「退け」


単語のみの彼女の低い声が、この部屋に響く。


「今行ったらあいつらの二の舞になるだろ」


彼女は「分かっている」というように俯き、焦っているような花桂樹は、淋の腕を掴んで言い放った。


「だから何だ…」


悲しい……いや、悔しそうな声音だった。


彼女が顔を上げ、花桂樹をキッと睨む。


「ワタシが行かずして誰が行くというのだ!!!」


淋が声を上げ、花桂樹の手を振り払う。


俺はこんな風に彼女がヒステリックに叫び、取り乱しているのを初めて見た。


「あのな――」


「見苦しいぞ竜胆!」


花桂樹の言葉を遮って、凛とした声が響きわたった。


「!」


淋が目を見開き、鬼達が目を伏せた。


「それが彼らに対する侮辱だということが分かんねぇのか!」


声の持ち主は空木だった。


「……っ…」


そのことに気づいた淋は、唇を噛み、俯いた。




――……空木が、怒った…