颯のエールを受けたわたしは次の日の放課後、彼を前と同じ場所に呼び出した。
今度は自分の口で。
部活の時間もあるから来てくれるか心配だったけど、彼は来てくれた。
しかし、彼の口から出たのはわたしの聞きたくない言葉だった。

「美咲さんのお弁当……受け取れない……」

そう言って彼は頭を下げた。
わたしの心臓が速くなるのを感じる。

彼が言葉を紡ぐ。

いや……言わないで……。


「好きな人がいるなら……そういうの受け取らないほうがいいって友達に」

わたしは目頭が熱くなるのを必死で堪える。

絶対、泣くもんか。


「そっか……わかった。ごめんね、迷惑……掛けたよね」

わたしはなるべく明るく見えるように笑って言った。
彼はそんなことないと首を横に振ってくれた。
でも、今はその優しさも辛いかも。
告白するまでもなく、わたしの短い初恋が終わりを告げた。

わたしは気になっていたことを彼に問う。


「甘い玉子焼き……苦手だったりした?」

「え……うん」

彼は一瞬なんのことかわからないような顔をしたけどすぐに思い出したように頷いた。
やっぱりそうだった。
ただ苦手なだけだったんだ。


「あの、美咲さん……俺のこと…その…好き……だったり…した?」

彼は申し訳なさそうに、途切れ途切れ言葉を絞るように言った。


「もし、そうだったら俺酷いことしたよな……期待させて……ごめん」

やっぱり優しいね君は。
好きでも何でもないわたしのことを心配してくれている。
君のその気持ちにわたしも少しは応えよう。
自分が後悔しないように伝えよう。


「大丈夫だよ。別に好きとかじゃなくて、ただ自分の作ったお弁当誰かに食べてもらいたかっただけなの。ほんとに。ほんとにそれだけだよ」

わたし、いつものように笑えてるかな?

君に気づかれていないよね。
彼はそのわたしの言葉に少し安堵したような顔をした。

よかったバレてない。


「でも、苦手だったからって残しちゃダメだよ!好きな人が作ってくれたものだったらどうするの?!男なら好き嫌いなくしなさい!!」

ポンと彼の背中を叩いてわたしは発破をかける。
彼は気まずそうな顔をした後、控え目に笑って頷いた。
つられてわたしも笑う。


わたしはその笑顔が大好きだったよ。
甘い甘い玉子焼のように、優しくて柔らかな君の笑顔が。