次の日。

一日中ご機嫌で学校の授業を終えたわたしは、いつものように颯と二人で帰路につく。
恋がこんなに楽しいものだとは。
昨日から浮かれっぱなしのわたしに颯がチャチャいれる。

「みっさきぃ~そんな浮かれてると階段踏み外すよぉ」

「浮かれてないし」

「何言ってるの、今日一日顔が緩みっぱなしじゃない。珍しく数学の宿題はやってくるし」

「うるさいなぁーもー」

わたしが手を挙げると笑いながら走って逃げる颯。
待て、その頭にゲンコツくらわしてやる。
待ちやがれ―っと?わわ!
颯が急に止まるものだから前につんのめるわたし。

「どうしたの?」

「美咲ぃ~、下駄箱見てみ」

言われて自分の下駄箱をのぞき込むと、昨日渡したお弁当箱の入っている巾着袋。
無造作に破られたようなノートの切れ端がそっと添えられている。
その紙には「お弁当ありがとう」という走り書きがあった。

「ひゅーひゅー熱いねぇ」

囃したてる颯だったけど、わたしはちょっと寂しい気持ちになってしまった。
……直接渡してくれれば、よかったのにな。

ありがとうの言葉はうれしかったけど、君の口から直接聞きたかったな。
昨日みたいに。

耳に残った君の声を思い出すだけで、わたしの心臓は勝手に走りだすんだよ。

「ありゃ?!」

颯が変な声をあげたので乙女チックモードから我に帰るわたし。
颯はなにやら気まずそうな顔で巾着袋から取り出した空のお弁当箱を持っていた。

どうしてそんな顔してるの?


わたしは颯からお弁当箱を奪い取って蓋をあける。
そこには、一口だけかじった跡のあるわたしの自慢の玉子焼きが、寂しそうに並んで横たわっていた。

「あ、きっと甘いの苦手だったんじゃない?味の好みって人それぞれだから。気にすることないって!」

颯が慌ててフォローを入れる。
そうだ。苦手は誰だってあるよね。
落ち込むようなことじゃない。
でも、そうか。
わたしは君のこと何にも知らないんだなぁ。
鮮明に思い出せる君の顔が急に霞がかかったように見えなくなる。

その日わたしは、生まれて初めて夕飯が喉を通らなかった。