笑えない!ぜんっぜん笑えない!

誰もいない体育館裏の木陰で一人強張った顔をしているわたし。
手にはお弁当のはいった巾着袋を抱えて。今ぜったい人に見せられない顔してる。

ってゆーか!
なんで体育館裏なの??
なんで手作り弁当なの??
まだ数回言葉を交わした程度なのに!!
颯のやつ勝手に突っ走って!!
あの娘バカなの??
わたしもなんで素直にお弁当作ってきてるのよ、ああーもう!!
でも、悪戯だと思われたら嫌だし……。
もう逃げられないじゃない!!
颯のバカバカバカ!!

わたしもバカ……。


「美咲さん?」

心臓が跳ねる。
振り返れば、ずっと眼で追ってた見なれた顔。
でもいつも横顔だったから、正面から見るのは少し新鮮かも。

心臓の音がさっきから鳴り止まない……。

うるさいよ……。

この音、聴こえてないよね?


「あれ、颯さんは?」

颯は、たぶんその辺の茂みに隠れてのぞいてる……なんて言えない。

「ごめん…ね、わ、わたしが颯に頼んだの。その、あ、その、……コレ!!」

お弁当を持った手を突き出す。
顔、直視できないよ……。
ああ、熱い。
火が噴き出しそうだよ。
こんなの告白してるようなもんじゃん!!

沈黙が怖い……お願い、何か言って。


「お弁当?俺に?」

「い、いつもコンビニで買ってるみたいだから……身体に、よくないと思って……」

うまく言葉が出てこない。
もうやだ、絶対変な奴だと思ってるよぉ。
そう思ってそれ以上何も言えなくなって黙ってしまったわたしに、ところが思いもよらない返事が返ってきた。

「マジ?!さんきゅー♪」

そう言って彼は受け取った弁当箱の蓋をあける。

「うっわ、超うまそう!これ美咲さんが作ったの?すげー!ありがとう!」

満面の笑みで浮かべた彼の顔を見て、わたしの心臓がもう一度跳ねる。
そして今度はきゅ~うっと締め付けられるように鼓動すると、だんだんと落ち着きを取り戻すように脈打った。

……いつもより少し早いみたいだけど。


「うん」

その日初めて、そしてその日一番の笑顔で、わたしはしっかり彼の顔を正面から見ることができた。

その日の晩御飯をわたしは3回もおかわりしてしまった。