「次にきょうこのことを紹介するね。」
と由梨が言うと、隣の女の子はメガネとマスクを外して、髪のゴムを取った。
俺と直哉は、女の子の顔を見た瞬間、驚いた。
だって目の前には、天才女優の夏川杏子がいたからだ。
俺は何回も目を擦った。
直哉に頬をつねられた。
「お前、痛いよな。」
「あぁ、痛い。あと、つねるなら自分をつねろよ。」
そして、俺たちは困惑した。
「2人とも落ち着いて。私の大親友、夏川杏子。文篤に紹介したいのは杏子。」
夏川杏子はメモ帳を出してなにやら書き始めた。
『はじめまして。夏川杏子です。私は、いま事情があって声を出すことが出来ません。話すときは、筆談になります。』
そして、また俺たちは唖然とした。
この3カ月の間に、夏川杏子の身にいったい何があったのか、全く理解できなかった。
だって、俺の憧れの人が目の前に現れて、失声症になってしまっているのだから。