『アニムソーレの唄』






「大きな木!」
「あれは、大樹の街にある亜人の木ですね。何千年も昔から、あるそうですよ」
「へぇ。大きいなぁ」

 大樹の街に、金髪の少女と銀色の髪を持つ青年が入って行く。
 金髪の少女はエメラルドグリーンの瞳を輝かせて、その木を見上げた。
 天まで貫きそうなその木の天辺は見る事が出来ない。
 ただ、晴れた空がそこにあるだけだ。彼女につられるように銀髪の青年はメガネのレンズ越しで、空を仰ぎ見る。
 赤い瞳は一度細められ、次に少女に視線が向いた。

「昔、亜人たちがこの天辺に住んでいたそうです。そして、この木になる実が欲しい村の人々が、農作物と交換していた……」

 銀髪の青年は上から降ってくる三つに裂けた葉を手に取り、指でくるくると回した。

「でも、実なんてないじゃない……春だって言うのに、花もない」
「それは、人間たちが亜人たちを追い払ったからじゃい」

 突然聞こえた第三者の声に、二人は辺りを見回す。
 少女が一点を取られると、木の根っこ付近に一人の老婆がいた。
 腰付近まで頭が下がり、猫背をさすりながら歩く老婆に銀髪の青年が驚いた顔をする。

「こんにちは、今回の依頼主様ですね」
「クロノスの奴かい。遅いじゃないか」
「すみません、僕はミカドと申します。こちらは相方のタルマです。よろしくお願いします」

 銀髪の青年――ミカドは握手を求めようとしたが、老婆はそっぽを向いてしまう。
 その行動にきょとんとしたミカドだったが、すぐに口元に笑顔を張り付け、手を戻した。

「今回の任務と言うのは何でしょうか?」
「アニムソーレの唄は知ってるかの?」

 少女――タルマが不思議そうに、ミカドを見る。
だが、彼も不思議そうな顔をしている事から、彼も知らないのだと取れる。
 それを見ていた老婆がわなわなとふるえ、二人に顔をぐいっと近付けた。

「アニムソーレの唄じゃ!」

 唾のかかりそうな勢いで叫んできた老婆にミカドとタルマが心底困った顔を浮かべる。

「す、すみません。僕たちは、こちらの事が詳しくありませんし……」
「そうよ! あのね、唄とか言われても解らないものは解らないのよ! べぇっ」

 タルマが舌をべっと出した瞬間、ミカドの鉄槌がタルマの頭に落ちた。

「痛っ!」
「すみませんね。新入りでして……詳しい話を良いでしょうか?」
「……ついて来な」

 老婆はそれだけ言うと、蹄を返して戻って行く。
 ミカドはその様子にふっと笑みを浮かべて、後に続いた。

「あ、待ちなさいよ、ミカド!」

 道のようになった木の根を歩いていると、広場のような場所で子供たちが輪になって踊っていた。
 そこは住宅地なのか、大人たちは家事や農業をしながら、子供たちを優しい眼差しで見守っている。
 ふと、タルマはその場で足を止めて、子供たちの方を見やる。
 子供たちは楽しそうに唄を歌っていたからだ。




 困ったならば アニムソーレに聞きなさい
 アニムソーレ アニムソーレ どうにか 叶えて欲しい
 病気の人を治しておくれ 怪我を治しておくれ
 どうか どうか お願いします アニムソーレ アニムソーレ