今年の夏は暑い。

 茜は、このどうしようもない暑さに、ブラウスをしっとりと汗ばませていた。

 
 学校帰りの道を1人でとぼとぼ歩く。
 さっきまで一緒だった友人も、分かれ道で別れてしまい、今は茜1人だ。


 ジワジワと汗がブラウスを食い尽くす。

 残り50mほどで家に着くのだが、その道のりが果てしなく遠く感じる。家の前には、愛犬のナナが待っている。


 この憎たらしいほどの良い天気を茜は一瞬恨みそうになった。

  
 教科書のギッシリ詰まった鞄は、茜の肩に重くのしかかる。




 家までの距離が残り10mの付近でナナが茜に気付く。やっと自分のご主人が帰ってきたのが、嬉しかったのか、暑いのに尻尾をブンブン振っている。


 ナナに触れたくて、茜は残りの道のりを早歩きで帰る。


 玄関に荷物を放り投げて、茜はナナを抱き締め撫で回す。

 

 それから、少しして茜は家に入り、制服を脱ぎ、荷物を自分の部屋に置き、着替え、コップになみなみと麦茶をくむ。

 それを一気に飲み干すと、茜はまた自分の部屋に戻り、大切なモノを取り出し、ナナのリードを持ち、また外にでる。


 大切なモノを彼女は、そっと首にかけ、ナナのリードをつけ散歩に出かける。


 この時間は茜にとって最も幸せな時間だ。

 そして、日課でもある。


 今度は外の暑さなんて気にもならなかった。