「え、雨……?」

見上げると、木々の間には青い空が広がっている。本日は晴天。
しかし雫は次第に強くなり、ポタポタと小雨が石畳を濡らし始めた。なぜだろうか、その唐突な天気雨がわたしの恐怖心を洗い流した。わたしはポカンと口をあけたまま空を仰いでいる。

シャン…シャン…シャン…。

どこからともなく聞こえる鈴の音。次第に近づいてくる。

シャン…シャン…シャン…………シャン。

止まった……。
いつの間にかわたしの前に、鮮やかな和傘をさした行列が並んでいた。その行列は雅な装いに身を包み、全員仮面を被っていた。先頭には烏帽子を被り笏(しゃく)を手にした神主の格好の恰幅のいい男が。お付きの者を二人従えている。列の中央には黒の紋付袴を着た男と、花の刺繍をあしらった絹帽子と純白の着物に身を包んだ女。三人のこどもがその着物の長い裾を地面につけないように持っている。周りを囲む僧侶の様な格好をした人々が杖をつき、先ほどの鈴の音を鳴らす。
その音にビクッと体を震わせるわたし。
白い着物の女がしゃがんで、その裾を持っていたこどもの一人になにやら耳打ちをする。すると、こどもは頷きわたしに駆け寄ってきた。いつ手にしたのか和傘と珊瑚のかんざしを持ってきてわたしに差し出すと、ある方を指差す。差された方に顔を向けると、そこには一本の道が。さっきまではなにもなかったのに。
こどもは自分の仕事に戻ろうと踵を返す。