どこをどう進んだのかひたすら薄暗い森を歩いていくと、目の前に大きな石の鳥居が見えた。こんなところに神社?いや、ここは神の国日本だ。こんな人目につかない山奥に神社があっても不思議じゃない。なんせ八百万の神がこの国にいるのだから。いったい誰が数えたのだかご苦労なことだ。
さておき、この鳥居を見た時、わたしの中には確証ではないが、確固たる自信が湧きあがってきた。
夏丸はここにいる!絶対……ここにいる……!
……いてくれ!
近くまでいくとかなり大きい鳥居だ。手入れがされているのかそれほど古い感じはしない。鳥居の先は長い長い石段が続いており、石段に沿って等間隔で並ぶ石灯籠にぼんやりと明かりが灯っている。夜に見たらさぞ幻想的だろう。鳥居の両側に大小様々な形のお地蔵さんが並べられ、どのお地蔵さんの頭にも猫の耳の様なものが見える。
少し気味が悪くなって、背筋にブルっと悪寒が走る。ついさっきの自信はどこへやら、わたしは二の足を踏む。しかしここまで来て引き返すわけにもいかない。もとより引き返す道もわからない。神社なのだから誰かいるだろうと思い、意を決して階段を登る。

「ええい、女は度胸だ!」

どの位登っただろうか。わたしの足が棒になって来た頃、ようやく長い石段が終わった。階段の終わりを向かい合って座る狛犬(これも猫に見える)が出迎えてくれた。登り切ったそこは広い境内になっており、真っ赤な鳥居がいくつも連なって、その下を社へ続く石畳がまっすぐ伸びている。異様な雰囲気に息を呑む。
わたしは不安を振り払うように気合を入れ直すと、鳥居をくぐって奥へ歩を進める。
おかしいと感じたのは、歩き始めて数分も立たないうちのことだった。
どう考えてもお社が先ほどより遠くなっている。振り向くとわたしが登ってきた石段も、出迎えてくれた狛犬も見あたらない。見えなくなるほど遠く歩いた記憶もない。だが眼前には、ただただ赤い鳥居が連なっているだけ。まるで合わせ鏡の中に迷い込んでしまったかの様な錯覚に鳥肌が立つ。どこからか猫の鳴く声が聞こえる。辺りを包む空気のせいか、大好きな猫の声も今は不気味に聴こえ背筋に冷たいものが伝う。その声は次第に数を増やしわたしの周りで反響しわたしを囲む。姿は見えないのに、沢山の何かに見られているような視線を感じて、わたしの身体は凍りついたように動けなくなってしまった。
延々とこだまする猫の声と、風に揺れた木々のざわめきがわたしの恐怖心を煽る。
どうしよう、怖い……!夏丸……!
そのとき冷たい雫が頬を濡らした。それは空から降ってきた。