「そいつは初代夏丸だ」

次の日の朝、おじいちゃんに昨夜見た写真について尋ねると、そんな突拍子もない答えが帰ってきた。夏丸の名が襲名性だとは初耳だ。生まれたこどもにでも引き継がせるのだろうか?でもそうしたら今の夏丸の親は名を手離したあと何処へ行ってしまったのだろうか。

「今の夏丸は?」

「3代目」

ほうほう、3代目。
これはなんとも面白い話になって来ました。わたしは好奇心に目を輝かせる。
つっこみどころは多々あるが、そんなことしてしまってはもったいない。まずは話を聞こうじゃないか。わたしは話の続きを促す。

「懐かしい話だねぇ。最初は夏樹が捨て猫を拾って来たのがはじまりだったのよ」

テーブルで朝食の準備をしていたおばあちゃんが話に入ってきて言った。
二人が話してくれた経緯はこうだった。

ある日、高校生だった母が学校の帰りに白い子猫を拾って来た。その白猫は夏丸と名付けられその日から家族の一員となった。ちなみにその初代夏丸はオスだったそうだ。
母はずいぶん夏丸を可愛がっていたが、数年たったある夏の日に夏丸は突然姿を消した。
母はそのとき町中を探し回ったそうだが結局見つからなかった。そして夏丸が家に戻ってくることはなかった。

「そう言えばあの時、夏樹が変なこと言ってなかったか?神社がどうとか……」

「ずいぶん探しまわったみたいだったからねぇ。あの子ったら大事にしていた髪飾りを失くしてきたのよ」

母は物を大事にする人だったから、失くしものをするのは珍しいことだ。わたしも家の物を壊してこっぴどく叱られた記憶が微かにある。

「その次の年だったかねぇ、夏丸にそっくりの白猫がひょっこり家の庭に現れてね。その子が2代目だよ。夏樹は夏丸のこどもが来たと喜んでいたよ」

「今の夏丸が3代目ってことは同じようなことがもう一度あったの?」

「そうだよ。今の夏丸がきたのは小夏が小学生にあがる前だったかね」

それは少し覚えてる。ちょうどお母さんが亡くなって、わたしが泣いているところに夏丸が来てくれたんだ。夏丸のおかげでわたしは元気を取り戻せた。それから夏丸はわたしの大事な親友になった。
でも、その前から夏丸はうちにいたなんてぜんぜん知らなかった。あの夏丸にそんな面白そうな不思議エピソードがあったなんて。じゃあ、今の夏丸もいずれ……?
と、そういえば今朝から夏丸を見ていないことに気づく。
昨日の夜のことを思い出す。そして、今の話。もしかして……。
夏丸……!

「わたし、出かけてくる!」

そう言って、わたしはごちそうさまも言わずに家を飛び出した。