その日の夜、懐かしい夢を見た。
しとしとと雨の降るあぜ道を母と二人で歩いている。わたしは母の差している綺麗な和傘が欲しくて水たまりに飛沫をあげながら、わたしはめいっぱいの駄々をこねる。そんなわたしを母は優しく笑って諫める。そしてわたしに目線を合わせるようにしゃがんでこう言う。

「これはお母さんの大切な友達がくれたものなの。小夏にもそんな友達ができたら素敵な贈り物もらえるかもね」

「うん!わたし友達いっぱいいっぱい作る!100人作る!!」

「あらあら。そうだ代わりにこれをあげる」

お母さんは首にかけていたネックレスを外して、わたしの首にかけてくれた。明るいグリーンに光る宝石があしらわれている。

「8月生まれの小夏にピッタリね」

そう言って母はニッコリと微笑んだ。

そこで目が覚めた。数少ない母との想い出だ。
外を見るとまだ暗い。すぐには寝つけなそうだったので、わたしは水でも飲もうと台所へ向かった。
すると、途中の廊下に夏丸がちょこんと座っていた。いつもならおばあちゃんの部屋で寝てるのにどうしたんだろう。
夏丸は「ニャー」と甘えるような声をあげて、わたしの足に擦り寄ってきた。わたしはしゃがんで頭を撫でてやる。

「おー、よしよし。どうした夏丸ぅ、恐い夢でも見た?」

夏丸はしばらくじゃれる様にわたしの手を弄んで、ペロペロと指を舐めた。すると暗い廊下の奥から違う鳴き声がして別の白猫が姿を見せた。夏丸はニャーとその白に駆け寄って身体をすらせる。

「あら、夏丸も隅に置けないのねぇ。こんな夜遅くにデート?」

夏丸はもう一度ニャーっと鳴いて、ニ匹は廊下の奥へと姿を消した。あらあら、行ってしまわれた。
わたしは大きく欠伸をする。

「さて、もう一度寝るかな」

わたしは台所で水を飲んだ後、また床についた。布団の中でぼんやりとさっき見た写真のことを思い出す。お母さんが若い頃、夏丸のような白猫を飼っていたのだろうか。

「明日おじいちゃんに聞こう……」

しばらく目を閉じていると、だんだんとまどろみの中に包まれてわたしはまた眠りに落ちた。