道のりはさほど長くはない。

馬車にして数時間で着いてしまう、至極ご近所さんだ。

従者は、馬使い2名、侍女-メイド-1人の少人数。
侍女の名はアイシャと言う。

持ち物もエーミールの母である妃がトランクいっぱいに詰めていたが、見直し、最小限に抑えた。

馬車の中は、多少揺れるが、比較的快適な造りをしている。

「エーミールさま、あちらの王子様がもしも、もしもですよ、…嗚呼、やっぱり言えないですっ!」

「なぁに?気になるわ」

エーミールが無邪気に聞くものだから、アイシャは、ひどく言いにくそうに

「いえ、ただ…同性愛者の方だとどうしましょう…」

と半ば嘆くように呟いた。

「その時考えれば良いわ」

「姫様は楽観的過ぎます!」

「だって、家にいたって、毎日毎日結婚の申し込みをされるだけ、もう嫌」

この話はエーミールも、彼女なりに考えた結果の末だ。

「だから、いっそのこと、結婚の噂でも流れてくれれば良いと思ってるのよ」

アイシャは、エーミールの笑顔が切なくて堪まらなかった。