幸い、朱色の夕焼けが輝く教室(ここ)には、俺等以外誰もいない。


だから祥吾が怒ると言う貴重な瞬間を独り占めできる。
――怒らせておいて、嬉しがるだなんて。
最低だ。



「お前、そんなんでいいのか?」


「……」


「自分の将来だろ? 確かに心細いと思うけど。それでも夢に向かってがんばるもんだろ?」


「だけど……」


「なんだよ」


「俺は、しょーごと離れたくないのっ。嫌だ」


「意味分からん」



不満そうに怒る祥吾が可愛いから、俺は、俺自身の戦いに勝てなくて。



「だって、俺はさー」



祥吾の頬を右手で触りながら、唇に、自分の唇を重ねた。



「……むっう」



唇を離すと嫌そうに俺を睨む祥吾。



「誰も見てないよ?」


「そういう問題じゃねぇ」



唇を腕で拭いながら俺の額にまたデコピンをしてきた。