「ああ、なんか金属アレルギーだとか言ってたよ。たまに痒くなるんだって」
ポーションミルクを開けながら、
すずが答えた。
「そうなんだあー……」
矢崎が声を落とすと、すかさず、主婦の一人がからかう。
「なあに?矢崎さん、渡辺さんのこと、
狙っていたの?」
「えっ!えっ!違います!違います!」
矢崎は、真っ赤になり、必死で手を振った。
その様子が可笑しくて、皆が笑った。
すずは、笑いながらも
矢崎の気持ちが少しわかった。
ここに転職する前は、ホテルマンだったという渡辺は、背が高く、肩幅の広いスマートな男だ。
切れ長の目でネコ顏の彼は、喋り方がソフトで、物腰も洗練されていた。
3年前、ラウンジのアルバイトの面接で彼が現れた時、すずは
(ちょっといいな…)
と思ったけれど、左手薬指にリングを見つけた途端、その考えを打ち消した。
早くに結婚した渡辺は、携帯の待ち受けに妻の写真を使うほど彼女を愛し、幼稚園の行事で休暇を取る子煩悩な父親でもあった。

