すずらんとナイフ



ラウンジの準備が一段落すると、コンパニオンたちは、10分程度、厨房の中で休憩するのがお約束だった。


「そろそろ、ひと休みしよっか?」

すずの言葉に、
恵は「そうだね」と頷く。


すず、恵以外の5人のメンバーは、
入ったばかりの新人の矢崎結子、
フリーター2人、主婦2人だ。


女ばかり7人が狭い厨房に集まり、
井戸端会議が始まる。
皆の結束を強めるための大事な時間だ。


すずは、厨房に備え付けの大型冷蔵庫から、オレンジとアップルのジュース、
アイスティ、アイスコーヒーの紙パックを次々に取り出し、ステンレスのテーブルの上に置いた。

ラウンジで客に提供するものだけれど、
休憩時に一杯程度なら飲むことが許されていた。

恵が、手早く紙コップを7個並べる。


「矢崎ちゃんは、何飲む?」

すずが訊いた。

「あ、私、オレンジジュースで…」

矢崎がおずおずと答えた。


「私、アイスコーヒー!」
「ホットコーヒー。アメリカンで」
各々が好きなドリンクを選ぶ。


矢崎が、ジュースの紙コップを両手で持ちながら訊いた。


「あのう…渡辺マネージャーって
結婚してるんですか?」

「してるよ。26歳にして子供2人いるんだよねー。しかも奥さん、3人目妊娠中なんだよ」


恵が紙コップ片手に答えると、

「えーっ、26で3人目!?」
「すごーい!」

皆から驚きの声が上がった。


「あの人、時々、結婚指輪外してるでしょ?なんでなのかしら」

主婦の一人が言った。