すずらんとナイフ



すずは目を疑った。


渡辺が『ひよこルック』の女と抱き合っていたーーー


その後ろ姿は史歩だった。


あまりの衝撃にすずの呼吸は一瞬止まり、その場に立ち尽くす。


人の気配で渡辺がすずに気が付き、すずと目があった。


渡辺は、瞬時に史歩から腕と体を離し、気まずそうに目をそらした。


すずはドアを閉め、
急いでその場を離れた。


愛妻家だと思っていた渡辺の意外な一面を見てしまった。


(うそ…二人ともなんてことするんだろう…いつからなんだろう…?)


すずの動悸は止まらなかった。



昼休みが終わり、すずがラウンジに戻るとグラスが積んであるカウンターのそばに、渡辺が立っていた。


ラウンジには彼の他には誰もおらず、しんとしていた。

史歩の姿はない。


すずが無言で渡辺のそばを通り過ぎ厨房に入ると、渡辺が跡を追ってきた。


「三浦さん」

渡辺が呼ぶのに、すずはクロスをたたみながら顔を上げずに「なんですか?」と答えた。


渡辺は、ラウンジの方を気にしながら言った。