すずらんとナイフ



純白のすずらんのブーケをモチーフにしたヘッドドレスだった。


白いサテン地のベルの花に、葉の部分は透き通った薄緑のオーガンジー。

いくつかのパールとクリアのスワロフスキーのラインストーンをあしらったそれは、とてもロマンチックな品だった。


(素敵…矢崎ちゃん器用なんだあ。コサージュでも使えるって言っていたけれど、ちょっと派手かも。やっぱり、ウエディングドレス着て、ヘッドドレスとして使うのが良いよね……)


すずはヘッドドレスを取り出し、ロッカールームの出入り口の壁にある鏡の前に立った。制帽をとり、頭にかざしてみる。


(うわあ!すごく、可愛い…)


すずらんは、すずの母親が一番愛する花だ。

自宅の裏庭には、亡き祖母が植え、その後自然に増えたすずらんが群生している。

五月にはいってすぐ、それは小さな白い花をつけ始め、あたりに清々しい香りをまきちらす。


『すずの名前は、すずらんから取ったんだよ』

まだ幼かったすずに母親は言った。


勇希にもこのヘッドドレスを見せたいけれど、結婚を催促しているみたいに思われても嫌だ。


(早く、勇希がプロポーズしてくれないかな…)


鏡の中のすずは思う。


すずはヘッドドレスをロッカーに仕舞い、ラウンジに戻ることにした。

昼休みはあと15分ある。
控え室で化粧直ししよう、と思った。


控え室のドアを開けるとーーー