すずらんとナイフ




「もしもし。お疲れ様〜、
どうしたの?」


『お疲れ様。すず、今、大丈夫?』


「うん、大丈夫だよ」


…勇希の声。
こんなところで聞けるなんて。

すずは嬉しくなる。


『今日は、俺も急に会社の連中と飲みに行くことになったんだ。
でさ、明日、天気良いみたいだし、御殿場アウトレットにでも行かない?
行くんだったら、朝、すずんちの近くまで迎えに行くけど』


もちろん、返事はOKだ。

電話を切ったあとも
思わず顔がにやけてしまう。


「やったあ!」

思わず、独り言が出た。

(ちょうど、春物のカーディガンが欲しいと思っていたところだったんだ!)


すずが席に戻ると、史歩は煙草を吸っていた。

すずをみると煙草を急いで揉み消し、涼しい顔で尋ねた。


「ね、すず、あの人たち、私達と一緒に飲みたいって言うんだけどいいよね?」


そう言って、史歩は通路挟んで向かい側の席で飲んでいるサラリーマン風二人組を指差した。


30歳半ばと思しき彼らの眼鏡を掛けたほうの男がすずたちに向かって、小さく手を振った。


真面目そうな男たちだ。


(史歩と二人だけで飲むより、ましかもしれない)

「いいよ」すずが答えた途端、

「今、そっちに行きますねえ?」

史歩は甲高い声で、男たちに向かって言った。