すずらんとナイフ




すずと恵は渡り廊下を歩き、別棟にある社員食堂に入った。

すずは、この時間になると空腹感が麻痺してしまう。
もともと少食なたちだった。


昼下がりの食堂は閑散としていた。

すず達の他には、奥のテーブルに男性社員が離れ離れに二人、食事をしながら、テレビのワイドショーを眺めていた。

すずと恵は、テレビの前に陣取り、
向かい合わせに座った。

すずは手作り弁当、恵はコンビニで買った焼肉弁当を広げた。

昼時をとっくに過ぎ、社員食堂のメニューも残り物という感じで、ろくなものがなかった。


「フフフ〜ン♪」

すずは上機嫌だった。
給湯器で恵の分もお茶をいれながら、
つい鼻歌が出てしまう。


中国からの団体客を連れて来た営業二課の3人の中に勇希がいた。

理香に先導され、ラウンジに入ってきた勇希は、お辞儀をするすずの前を通る時、人にわからないように、目で合図してきた。


日本酒を運んだのは、すずだ。

勇希は英語で何かいいながら、中国人の客たちに日本酒を勧めていた。

松花堂弁当を食べながら、談笑していた。

(なんて、カッコいいんだろう…)


「ハハーン、すず、大沢さんとうまくいってるんだあ?」


焼肉弁当を食べながら、恵が訊いた。


「もちろん!」

すずは箸で恵を指差した。


「めっちゃラブラブでーす!」

「うわっ、ご馳走様!」


恵がおどけて返し、二人は
キャッキャと笑い声を立てた。