そこまで言って、横の扉から二回程軽やかなノック。氷衣が代わりに返事をすると、黒スーツの男が現れ、会釈を交えて言った。


「お二人ともどうぞこちらへ。社長がお待ちしております」


 二人は顔を見合わせる。



 ★ ★ ★



 頭上を規則的に配置された、直線上の円形ライト。そんな重苦し地下廊下を進み、現在。カプセル型のエレベーターで、最上階を目指している。


 天を突かんとする程の高いビルが三本。さながら架空世界の大樹の如く、互いが互いを支えるように、鉄の枝が連結されている。


 地下五十階、つまり最下層に位置していた二人は、案内役の男の背中を眺めながら、地上百階の社長室まで上昇しているのだ。無論、エレベーターの足場は、カプセル型の凹みを補う、透明な強化ガラスが敷かれている。


「すげーな」

「あなたさっきからずっとそれね」


 地上八十階まで来ると遥か先に広がり、爛々と輝くエメラルドグリーンが本物の宝石に感じられる。外国育ちの二人にとって、初めてとなる翡翠の海だった。


 目下には、陽光を受ける街並。ほとんどが仕事漬けの人々は未だ正装で、街の中心に位置するサテライト社周辺を駆け回っている。

 気休め程度に、包帯だらけの氷衣の上半身には迷彩色のベストが羽織られていた。


「まあ見てみろって。試験の時、ここに運ばれるまでずっと目隠しだったじゃねーか。俺はもうお天道様を拝めないんじゃないかと気が気じゃなかったぜ」

「お天道様って誰? 国王の事?」

「違えよ。人じゃねえし。もっと偉いわ」

「ああ、太陽?」

「That's right!」