「悪かったね、話しの途中で携帯が切れてしまって。なんか調子が悪いみたいなんだよ」

『……』

「あれ?聞こえてる?」

『ええ!聞こえてますよ、心が痛くなるぐらい。ふぅー。それで、今どんな状況なんですか?』

「それがね、ヒナみたいなのが地面に横たわってるんだよ」

『おおかた、ウグイスとかモズのヒナが巣から蹴落とされたんでしょ。私、化粧とか着付けで忙しいんですよ教授!』

「違うんだ田中君。この横たわってるの人間なんだよね」

『人間って!今日は滑山の奥まで登ってるんですよね?その人間はきこりですか?密猟者ですか?』

「それだったら田中君に相談しないよ。自分で担いで下山してる。私の目の前にいるのは、中学生か高校生ぐらいの娘さんなんだよ」

『教授』

「はい」

『それは罠です!今すぐ下山してください』

「だって衰弱してるみたいだし助けないと死んじゃうよ、この娘さん」

『いいですか!その少女に少しでも触ったら、後から恐いお兄さんが教授の研究室に来て合成写真をちらつかせながら脅迫してくるんですよ!』