でも。
私の唇に触れた“何か”は。
唇じゃなくて。
ヤツの人差し指だった。
「…ドキドキしたろ?」
「え…?」
目の前には。
さっきより少し離れてるけど。
意地悪そうに口角を上げるヤツの顔。
「年上とか年下とか。
恋愛は条件でするモンじゃねぇんだよ」
“わかる?”とでも言いたげに。
目を細めて指先で私の唇をなぞった。
それは、私が見る初めての顔。
いつも見せてるあどけなさを残してる顔じゃない。
妖艶さを含ませた男の顔だった。
そして。
唇に触れていた指を離して。
もう一度顔を寄せようとしたその時。
「…涼真、またサボり?」
「保健室にいんじゃねぇの?」
廊下から聞こえてきた声に。
ヤツが苦虫を噛み潰したような顔をした。
「…空気読め、バカップル」
その言葉と、“チッ”という舌打ちと一緒に。
ヤツは私から離れた。