“警備員が階段を上り始めました。速度はそれほど早くないです。脱出出来ないにしても、せめて4階からは何とか出てください”


おそらく彼らは4階まで直接来るはずだからな。それまでに下階へ行けば多分やり過ごせる。



「おい!日比野、逃げるぞ」


ユウ先輩とタケシ先輩が、扉付近で怒鳴った。



「あ、はいっ」



扉に足を踏み出そうとして、ふと後ろを振り返る。



机の列の奥、窓際で黒い影がふっと動いた。



「アリサ?おいっ、アリサ!」



何やってんだ、アイツ。まだテスト探してるのか!?



「日比野!」


ユウ先輩が再び怒鳴った。


「あーっ、先行ってて下さい!アリサと後で行きます」


「は!?もう時間ないって!」


タケシ先輩もユウ先輩に続いて叫んだ。



「ふたりとも受験生なんだから、見つかったらまずいでしょ?すぐ行きますから!」



「バカ、何言って…」


そう怒鳴りかけたタケシ先輩を手で制して、ユウ先輩が俺をにらんだ。



「絶対見つかるな。必ず帰って来い!」


「…御意にっ」


俺が叫ぶと、ユウ先輩は口角をくいっとあげて、


「行こう、タケシ!」

「あ?お、おう!」


教室を出て行った。




「アリサ?なにやってんだよ。まずいぞ!警備員が来る!」


走って黒い影に近付くと、それはやはりアリサだった。


「列を間違えてたのよ。この辺なの。絶対間違いない」


「あのなぁ…!」


“大吾!もうヤバイよ、3階まで来てる!”



啓一が目に見えて…もとい、耳に聞こえて焦っている。


「もういいから!アリサ!」

「アタシが良くないのよ!」

「何が良くないんだ?捕まって停学の方がよっぽど良くないぞ!」

「“最バカ”のあんたは退学かもね」

「確かになぁ…って、話逸らすな!」



何度も肩を掴んだり、腕を引っ張ったりしてるんだが、なにぶん力が強くて振り払われる。



「んっ、あっ。あったーっ」


嬉しそうな声をあげて、目当ての机の引き出しを無造作にガタガタと開ける。


「日本史ゲットぉ!」



“大吾!まだ!?マジでヤバイよっ”



いよいよ啓一の声色がマジだ。


「何してんの?呆けてないで行くわよ」


「お前なぁ…」



すでに扉へ走り出したアリサのあとを、ため息混じりで追う。