真っ暗な階段を、非常口を示す緑の明かりだけが、足元を不気味に照らす。


「足踏み外すなよ」


「死ね。あんたが足を踏み外せばいい」


鋭いセリフが俺の胸を突き刺す。いや、もう慣れたけど。


「4階まで上がるだけでも重労働だな…」


アリサの悪口を受け流して、ひとりごとのように呟く。クソ。恨むぞ、自分のくじ運の無さを!



ちなみに職員室は4階にある。現在時刻は夜中の12時過ぎ。警備員はまだ休憩中のはずだから、そこまで身を隠しながら進む必要はなく、比較的堂々と階段を上がっていける。



俺が探すのは現国と、古典。テストを作った先生は、浅井さんと岩田さん(いらない情報だろうが、両方男だ)。机の場所は分からないが、確か座席表が入り口に貼り出してあるはずだから、まず大丈夫だろう。



「…大吾」


「ん、なんだ、アリサ」


突然、アリサが俺の名を呼ぶ。お前から呼ぶのは良いんだな。ああ、構わんよ、俺は。優しいからな。


「その、アレよ。悪かったわ」


「だから、もう良いって」









…説明しよう。


そう。


あの日の話だ。



ミッションの最終ミーティングの日。


ミーティングが終わった後に、教室を出ようとした俺の前に、東條さんが現れた。


以下、回想。



「ど、どうしたの、東條さん」


カラカラに乾いた喉の奥をなんとか震わせて、東條さんに尋ねる俺。



「……」

↑東條さんの三点リーダ。

「……」
↑俺の三点リーダ。



数秒の無言。


「ミッション…て、なに」


ヤバい。
ヤバ過ぎる。
聞かれてる。


「いや、ミッションてのは、その、あれ、あれだよ、ミッションは」


「勉強せずに良い点をとるのは、すごく」


普通の大きさの声。
常人並みの声だ。


つまり、東條さんからしたら、物凄く大きな声だ。


「すごく、いけないことっ」



そう、東條さんは怒鳴っているのだ。
そして、怒っているのだ。


あまりの剣幕に…いや、それほど大きな声ではないが…俺はとにかく押し黙るしかなかった。



ちなみに、この時点で麻雀部のみんなも事態を把握したようで、状況を静かに見守っていた。



そのまま長めのスカートをひらりと翻して、東條さんはとことこと小走りで行ってしまったのだ。