外灯の光が届かない闇の中。出来るだけ身を縮め、息を殺す。


ザワザワと南風が夜の植木を揺らしていく。


“間もなくです。静かに”


ガガッ、ザーッ、と、耳障りなノイズと共に、腰に下げた無線機から啓一の神妙な声が聞こえた。



“階段を降りてきます。最接近まで、5…4…3…2…”


プツンと音がすると、無線が切れる。ノイズを消すためだ。



空気が一層張り詰める。



カツッ。


カツッ。


カツッ。


カツッ…。


風も止んで静まり返った空気の中を、窓ガラスを通して、乾いた革靴の音が不気味に響いていく。



一瞬、息を止める。




と、

ザザザッと、無線にノイズが入る。


“あぁー、あぁー、あーあー♪こちらユウキ。こちらユウキ。警備員の人たちが部屋に戻りましたよっ”



あまりに能天気なその声に、その場の緊張の糸をぶちぶちと乱暴に切り刻まれた俺はぺたりとその場に座り込んだ。



「頼むよ、もっと場に合った報告の仕方があるだろ、ユウキ?」


俺と同じように力が抜けてしまったらしい直紀が、疲れた声で抗議した。



“えへへ。なんか楽しくないですか、これ?”



緊張感の欠片もないな。まぁ、変に緊張しすぎるのもよくないけど。



“こちら進。警備員が部屋に入ってから間もなく1分だ。準備はいいか?”


進からの通信を聞いて、再び気を引き締める。


大きく深呼吸して、周りを見た。


ユウ先輩はいつもより少し真面目な顔をして、それでも口角だけはいつものように不敵に吊り上げている。

狩りに臨む黒豹のような、野生の目だ。


アリサはポトラックパーティーの始まりを今か今かと待ちわびる子供のように、目をキラキラさせている。

プレッシャーってものがないのか?


直紀と2年の野球部3兄弟は緊張を隠せないようだったが、試合前の良い緊張感、と言った感じのものだ。ミッションに支障が出ることはあるまい。


そして、やる気満々に肩をぐるぐる回している野球部レギュラーの剛志先輩を合わせたメンバーが、本ミッションの実動班である。



「よし。行こう。テスト問題を我らが手に!」


ユウ先輩が無線の向こうの指令班と、目の前の俺たちに向かって、静かに吠えた。