「よし、あとは本番。俺たちがどれだけ動けるかにかかっている」


珍しいクワガタを見つけた小学生みたいな、キラキラした瞳でユウ先輩がまとめにかかった。


「何度も言うようだが、決行はテスト2日前の土曜日の夜だ。22時に正門前集合。遅刻厳禁な」


分かってますから、俺の顔見て言わないでくださいよ。


「一番学校に近いはずのお前の心配をしなきゃならない、俺の身にもなってくれ」


「面と向かってそんなにはっきり言われると逆に清々しいですね、なんか」



ともあれ、これでミッションの全容は見えた。



ミッションを首尾よく完遂すれば、テスト問題が手に入る。



それを使って、試験で高得点を連発。


うまく行けば、秀才席、いや。



東條さんの隣にも座ることが出来るはずだ。



そこまで行けば後は簡単。


あの石川とかいうセクハラ教師から、東條さんを守ればいい。


奴がカツラだという秘密を握る俺が目の前にいれば、石川もおいそれと東條さんに手を出せまい。



俺にしかできないんだ。

やってやるぞ。



「質問あるか?後で気付いた事があったら俺に連絡してくれ。じゃあ、今日は解散!頑張ろうぜっ」



終始よく分からんテンションだったユウ先輩の号令に続き、皆「おー」だの「イエーイ」だの、それぞれ微妙に気合いの入った声をあげ、ミーティングは解散となった。



妙な使命感とプレッシャーを感じながら、荷物をまとめて誰よりも先に3年K組の教室を出る。






と。



扉を開けた瞬間、俺の足は地面に張り付いたように凍り付いたのだ。



「…えっ」



「どうした、日々…うぉ」


俺の後ろからユウ先輩の声が聞こえ、そしてその声も小さな驚きとともにすぐに聞こえなくなった。



他の麻雀部の連中はそれに気付くことなく、がやがやと雀卓の片付けやら黒板の掃除などをしているらしいのが、気配で分かる。



俺の足が止まった原因は、まさに俺の目の前にあった。



さらりと肩まで伸びた黒髪に、長めのスカート丈。優等生を絵に書いたような美人画が、俺の目に飛び込んできた。



「あ…と、東條さん」



血の気がザザザッと、
音がするほど引くのが分かった。