“おい!大吾、大吾!”
“大吾先輩…!”

なんとかアリサにミッション参加を諦めてもらおうと考えを巡らせていた俺を、進と直紀が小声で呼び寄せた。



「なんだよ」


「アレがお前の言ってた“泉アリサ”か?」


そうだよ。あれがイリオモテヤマネコに見えるか?


「お前の天敵で、毒舌家の、“泉アリサ”?」


あぁ、そうだ。
この至近距離で見間違えてるんだったら
またコンタクトを換えなきゃならん。



「どうも毒舌な風には見えないんだけどな」

「それに結構可愛いじゃないですか」



進の分析に、直紀も合わせた。それはそうだ。ヤツは俺にとってのみ毒舌で、ゆえに俺にとってのみ天敵なんだからな。



進や直紀にとってはただの可愛らしい女子生徒に見えるのも、仕方ない。



同じクラスでよく顔を合わせる啓一や、勘のいいユウ先輩なんかは、ヤツの本性を薄々感じ取っているようだけどな。



まァ、アレだ。どちらがアリサの本性なのかという議論は、この際あまり関係ない。


問題は、アリサがミッションに参加するかどうかってことだ。



他の部員たちはまだしも、俺はアイツに果てしない憎悪を燃やされているんだから。落ち着いてミッションに従事などしていられない。


テスト問題を奪還するどころか、俺の命が奪われる心配をしなきゃならない。もちろん、あのアリサからだ。


「そんな大げさな。ただの女の子でしょ?優しそうだし」


「あのなぁ、じゃあ聞くが、直紀。優しそうな、ただの女の子だったら、人間を5メートルも殴り飛ばしたりすると思うか?」


「え。ご、5メートル?」


「左アッパーで的確に顎をミートしてきたぞ」



女子ボクシング部でもあれば推薦してやったところだ。幸いそんな部活はないみたいだが。


「身体能力としては申し分ないんじゃないか」


「前向きに話を進めるんじゃない」



そりゃあ、進の言うようにアリサの運動神経は並じゃない。


格闘技はもとより、走らせても男子にだって負けやしない。


別に褒めてるワケじゃないぞ。ヤツの身体的なステータスは、すなわち俺に対する危険度と同義なんだからな。



アリサがいると、どうにもやりにくい部分があるんだよ。



それが分かってもらえないんだよな。アイツは俺以外には普通の女子だから。