放課後。
麻雀部へ続く廊下が、こんなにも苦痛に感じたことが今まであっただろうか。



「こんにちはぁ…」


3年K組の教室の扉を、そろそろと開ける。


「よー」

「お疲れーす」

教室では、新立進と杉山直紀が雀卓を作っているところだった。



「あれ、ユウ先輩は?」

「トイレ」

俺の問い掛けにぶっきらぼうに答えたのは、2年M組・新立進。


「お前、週明けにはテストだけどちゃんと勉強してるのか?」

「今は週明けのテストより週末のミッションだろ」


「…直紀といい、お前といい、“バカ席”はテストを甘く見すぎてる」


真面目で勉強家ってところが、進のアイデンティティーなんだけどな。親みたいなこと言わないでくれよ。


「ちゃんと勉強してるよ。日本史と世界史だけ」


「2教科だけ?お前な、そんなんで“秀才席”座れると思ってんのか?」


「期末のあとはどうせ夏休みだ。次のテストは9月。急ぐことないさ」


「…呆れてものも言えないよ」



進はしかめっ面の上に大きなため息をついて、教室のすみに立て掛けてある麻雀マットを取りに歩いた。



「なんか元気なくないですか?大吾先輩」


献身的に雀卓作りを手伝っていた直紀が、俺の発するマイナスオーラに気付いたようだった。


「ちょっと野暮用が出来てしまってね。頭を痛めてる」


愚痴をこぼしながら、俺は背面黒板に歩を進め、ロッカーの中に隠してある麻雀牌の箱を手に取った。


「野暮用って?ユウ先輩にか?」


進はそう尋ねながら、筒状に丸めたマットを槍投げのように俺に放る。


「まぁね」


マットを受け取った俺はそれを今度は直紀に放る。


「おっとっと…」


直紀はそれを2、3度ファンブルしながらも、先ほどくっつけた机の上に広げた。


「また何かやらかしたんですか?」


「ミッションのことアリサに聞かれちゃってさ、参加させろっつってうるさいんだ」



事情を説明しながら、さらに手に持った麻雀牌の箱も直紀に投げる。



「よっ…、そいつは大変ですね」



直紀はそれを器用にキャッチすると、雀卓上にジャラァッっと牌をぶちまけた。


空になった箱を手近な机に置くと、じゃらじゃらと手触りを確かめるように牌をかき混ぜる。