「なるほど。東條さんのために“秀才席”かぁ。ふふっ」



鳥井先生は整った顔立ちをくしゃっと崩して笑った。



「なんか、若いわね。妬けちゃう」

「何言ってんですか」

「キミまだ16、17だもんね。テスト奪還作戦、いいじゃない。それくらい犯罪じみた遊びの方が、あたしくらいの歳になったときにいい思い出になるわよ」



まァ、養護教諭って直接生徒たちに授業するような立場じゃないし。あんまり校則やら校風やらにこだわったりしないんだろうけど。


「…先生がそんなこと言っていいんですか」


「だって、それ面白そうじゃない」


「遊びじゃないんですよ。俺だけは」



他の連中は遊び感覚だけどな。いや、タケシ先輩はマジか。あわよくば3年のテスト用紙を盗もうと企んでるみたいだし。



「遊びじゃなくても、楽しくやらなきゃね」



にこっと白い歯を見せる鳥井先生。その笑顔は30代とは思えないほど幼くて、俺たちとそう歳の変わらない女の子に見えてしまう。



ここに来る生徒の若さでも吸い取って生きてるのかな?そう言えば俺も、肌のハリが悪くなってるような…。



「失礼なこと考えてるでしょ」

「とんでもない」



冗談はさておき、テストまでもう日が残されていない。


作戦の完遂において重要な要素を占める、“情報”。それの収集が、部員たちに与えられた課題だ。



“情報”抜きにして、今回の作戦は成功させられないのだが。



「その情報ってのが、なかなか集まらないってワケね」

「そうなんですよ。あんまり先生みたいな立場のヒトには聞かれちゃマズイんですが」



「…なに。あたしがそんな面白い作戦、バラすと思ってるの?」

「や、その、思ってないですけど」



いくら保健室の先生と言っても、学校から給料貰って生活してるワケだからなぁ。



「まァ、キミとは今日初めて会うし。警戒されても仕方ないわね。日比野くんだっけ?」

「日比野大吾です。以後お見知りおきを」



「ん。よろしく」


にこりと笑みを見せた鳥井先生は保健室の出入口に歩を進めると、扉のわきに設置されている内線電話を手に取った。