「─ってワケで、昼休みと放課後のセクハラは何とか止められそうだ」



「へェ。やけにあっさり解決したね。もうひと波乱あれば面白いのに」



「バカか。何事も穏便に済ますのが一番なんだよ。人生は妥協の連続なんだ」



放課後。
昼休みの話をしながら長い長い3階の廊下を歩く、日比野大吾─つまり俺と永野啓一。目的の教室はもちろん…お、見えてきたゾ。



3年K組の扉を勢いよく開ける。



「おう。お疲れ、おふたりさん」



即席の麻雀卓にこちらを向いて座っていた麻雀部部長の中村悠一先輩、通称ユウ先輩が真っ先に俺たちに気付いた。



それに続いて雀卓を囲んでいた残りの3人も、こちらに顔を向ける。



「また遅刻したんだって、大吾?」



ユウ先輩の右隣に座って不満げに文句をこぼすのは、2年M組の新立進。



「お前は俺の母親か、それとも担任か。え、スッスン?」

「スッスン言うな!」

俺が遅刻するたびにこうやって苦言を呈してくるこの男は、どこで遅刻者情報を仕入れてくるんだろうな。稲垣先生が告げ口してんのか?



「あっ、スッスン先輩、それカンします」

「だからスッスンって呼ぶな!」


ユウ先輩の左隣、つまり進の向かいに座っている少年は、1年W組、杉山直紀。



「直紀、いつの間にカンなんて覚えたんだ」


「へへ。いつまでも初心者ではいられませんからね。カンをするとドラが増えて高得点のチャンス!」



自信満々に牌を切る直紀。
安易にカンしていいのか?



「はーい残念っ。ロンだよ直紀くん」

「うェっ!?」


ジャッと手牌を公開して、にこりと笑ったのは、麻雀部の紅一点。1年δ(デルタ)組の波多野優希。愛称ユウキちゃん。



あーあー。
綺麗な並びだなぁ。


「リーチホンイツに一気通貫でしょ。役牌に…あららー、裏のカンドラ乗っちゃったよ?」



指で数えながら点数を計算するユウキちゃん。


「バカかお前!捨て牌見たら分かるだろうが!?なぜそれを切る!」



進が怒るのも無理ないな。何せ倍満だ。そうそう出るような点数じゃない。



カンしなければ、傷も浅かったろうに。



「うぅ…しまった…」



結局直紀の持ち点がなくなって、ゲームは終了。ユウキちゃんが大差で1位だった。