「でもさ、どうやって東條さんを守るワケ?何か作戦とかあるの?」



啓一がシャーペンの芯を入れ換えながら言った。啓一は一度に1本しか芯を入れない。シャーペンの中が汚れないんだってさ。



「んー、ちょっと弱味を握っててね。彼女の近くにいられれば牽制できると思うんだけど」



「問題はアンタのカニミソ並みの脳ミソじゃあ、さゆみの近くに座れないってことよね」



「反論の余地もツッコミの余地も全くないよ、その通りだ」



アリサの毒舌は正論そのもの。“最バカ”の学力では、学生生活の大半を占める授業中には、東條さんの周囲に近寄れない。



「アンタ、授業中寝てるから知らないかもしれないけど、石川のヤツ授業中にもさゆみに絡んでるわよ」



「前の席のヒトたちも、自分の成績が大事だからね。表だって抗議できないのかも」



啓一が冷静に分析した。確かに、触らぬ神に祟りなしというか、2年部の全権を掌握している石川には、極力目をつけられたくないってことだろうな。



特に“秀才席”に座っている優等生たちの多くは、成績命のガリ勉どもだから(啓一やユウ先輩は別だ)、余計に石川には悪く思われたくないのだろう。



「どうするかなァ…」



シャーペンをカチカチと鳴らして、独り言が漏れる。



「そんなに深刻に考えなくてもいいんじゃない?」



それを聞いて啓一が事も無げに提案した。そりゃあ、俺がわざわざ首を突っ込む事でもないかもしれないけれど。



「それじゃあ話が進まないじゃないか」

「話が進まないと何か問題あるワケ?」



他人事のように尋ねてくる啓一。
あるんだよ。色々。



「永野くんが勉強頑張って、さゆみの隣に行けばいいじゃない。この3人の中だったら一番可能性が高いし」



しれっと啓一を推薦するアリサ。俺のコトは完全にアウトオブ眼中だ。



「だから、それじゃあ話が進まないんだって」

「は?進んでるじゃない」

「俺を中心に進まなきゃ意味がないんだよ」

「なんでよ」


だから。
色々あるんだよ、事情が。


「うーん、さすがにそんなに前の席に行くのは難しいなァ。最高でも2列目の後半だったから。マグレでね」



東條さんの近くに座るには、2位~4位あたり。または2列目の前半ならば彼女のすぐ後ろに座れるのだが。