午後5時50分。



オレンジの夕陽が窓から射し込んで、目が眩む。6月半ばの梅雨真っ只中ってことを考えると、珍しい空模様だ。



「さて、この辺にしとくか」



ユウ先輩の一言を合図に、雀牌と雀卓を片付けにかかる。



結局、最後まで部員は増えなかったワケだが、別に心配することじゃあない。月に1回くらい、1人や2人しか来ないときがあるんだ。



俺としては2台ある雀卓をフル活用して、わいわいやるのも好きだし、その方がよっぽど部活じみてて良い。



部活と言い張るからには、部活らしい、部活じみたことをしないとな。



でも、今日みたいな活動も悪くない。先輩と雀卓挟んで、他愛ない話を延々してさ。


ユウ先輩が東條さんみたいな素敵な女性だったらなお風流なんだけど。あ、相手が東條さんだったらそもそも話が続かないか。俺も緊張するし、彼女も無口だし。






そういえば、東條さんは石川のところに行ったのだろうか。放課後職員室に呼ばれてたみたいだけど。



思い出して、また腹が立ってきた。



英語の宿題とかなんとか言って、昼休みの時にはヘンないちゃもん付けてたし。挙げ句ボディタッチまでしていやがった。あの時の東條さんは、明らかに嫌がっていたと思う。



相手が学年主任だし、東條さんも見た感じアクティブな子じゃないから、されるがままになってるんじゃなかろうか。



「おーい、日比野?」



俺の顔を覗き込んで、ユウ先輩が怪訝そうな顔で声をかけてきた。



「怖い顔して、どうした」

「…いや、なんも」

「ウソつけ」



ユウ先輩は色んなコトを見透かしたような目で、俺を凝視している。この人も女の子ウケしそうな顔をしているな。彼女とかいるんだろうか。



「しょうもないこと考えてるだろ」


「滅相もない」



へェ、そうかい、と、ユウ先輩は意地悪そうに笑うと、机にかかっていた荷物を肩にかけた。



「詮索はしねぇ。距離感ってのは案外大切なもんだからな」


少し、胸が痛んだ。


「…スンマセン」


「謝るコトじゃないだろ。さ、行くぞ」



「…はいっ」


俺は大股で教室の扉に向かうユウ先輩の後を追った。



と。


「んっ?」


扉を開けたユウ先輩が、声を上げた。