「はい、ツモです」



「うわっ、リーヅモにピンフタンヤオ?強くなったな日比野」



「光栄ですね」



2人麻雀を始めて40分。まだ部員は俺とユウ先輩のみだ。



「…みんな来ませんね」


「ま、公式な部じゃないし。こういう日もあるだろ」



それはそうだ。書類上は麻雀部など学校に存在しない。来るも来ないも自由。部活じゃないのだから。



主将会議に参加することも、入退部届の提出も、大会で結果を出すことも、求められることはない。


その代わり、学校からの援助は一切ないし、学校の名前で大会に出ることも許されない。内申書では帰宅部扱いになるし、極端にいえば、この3年K組を追い出されたって文句は言えない。



「いや、俺は言うぞ。俺はこのクラスの生徒なんだから」

「…いやいや、だから。麻雀部としての活動をやめろって言われても文句は言えないって意味ですよ」



「文句くらい言ったっていいだろ」

「文句言う言わないじゃなくて、文句言っても聞いてもらえないって意味です」



「知ってるよ」

「…この一連の会話なんだったんですか」



たまにこの人が“秀才席”に座るほどの成績優秀者ってこと、忘れてしまいそうになる。冗談は多いし、すぐ人をケムに巻くし、タバコ吸うし。



「ちょっとからかっただけだ。日比野って勉強はできないけど常識はちゃんとあるもんな」

「誉めてます?ソレ」

「もちろん」



手牌を整理しながら、ユウ先輩は珍獣でも見るような好奇心いっぱいの目で俺を見た。



「麻雀ってのはバカじゃできないし。やっぱり秀才だのバカだのって、テストだけじゃ計れないよなァ」

「…前も言いましたけど、それを先輩が俺に言うのってダメですよね」



なぜなら俺は“バカ席”最後尾の“最バカ”で、ユウ先輩は“秀才席”の住人なんだから。



「やっぱりイヤミか」
「イヤミですって」



「ホントにそう思うんだけどな、俺は」



トン、トン、と雀牌で机を叩きながら、ユウ先輩が笑う。



「日比野なら、“普通席”、いや。“秀才席”にだって来れるよ、多分」

「はは。あ、先輩。それロンです」



「げっ、マジ!?今日は全然ダメだなァ」



笑って流してしまったけれど、ユウ先輩の言葉は素直に俺の心に響いて、ちょっと嬉しかった。