私立・心学社学園高等学校、3階。



長い長い廊下の中ほどにある、3年K組。



「こんちわ」



麻雀部の活動場所だ。



「おっす」



「あれ、今日はユウ先輩だけですか」



ユウ先輩は、麻雀卓の前で椅子に座り、マンガ雑誌を読みながらタバコをふかしていた。



「タバコやめたんじゃないんですか?」



「波多野のいるとこでは吸わないようにしてる」



「あァ…ユウキちゃんめっちゃ嫌がってましたもんね」



ユウキちゃんがユウ先輩の喫煙を見つけたときは、結構大変だった。



凄まじい剣幕で怒りだしたユウキちゃんの前に、ユウ先輩はやむ無く正座。



1時間以上説教を食らった上に、まだ10本以上あったタバコと新品の1箱をゴミ箱に捨てさせられて、二度とタバコを吸わない、と部員の前で宣誓させられたのだ。



もちろんその間、部員は笑いをこらえるのに必死だった。



「宣誓のときなんて、最後には堪えきれずに結局大笑いしちゃいましたけど」



「アレのせいで波多野ブチ切れて全員正座したよな」



「ははは」



ふぅっと大きく煙を吐くと、ユウ先輩は胸ポケットから革製の袋を取り出した。



「なんすかそれ?」

「携帯灰皿」

「へェ…」


タバコを携帯灰皿に突っ込んで消化したユウ先輩は、椅子から立ち上がって窓を開けていく。



俺も手伝って後方の窓際へ向かった。



「サンキュー。波多野にはオフレコで」



窓を開けながらいたずらっぽくニヤリと笑ったユウ先輩に、俺もニヤリと笑顔を返した。



「でも、十代のうちに吸いだすとやめられなくなるって言いますよ」



「そうだなァ、やめないとなァ…」



ユウ先輩はバツが悪そうに頭をかきながら、雀卓に腰掛けた。



「ユウキちゃんもユウ先輩の身体を思ってですよ、あの怒り方は」



「日比野にも説教されるとはな」



「あ…すみません」



俺が慌てて謝ったのを見ると、ユウ先輩はふっと吹き出すように笑った。



「いや、俺が悪いよな。2人麻雀やろうぜ」



「…そうすね」



俺も雀卓に腰掛けて、散らばっている雀牌を整理するユウ先輩を手伝った。



「杉山に半荘で負けたらやめようかな、タバコ」

「先輩、やめる気ないでしょ」