家から近いところに丁度学力の合う高校があったのか、それとも家から近いこの高校に入学するために俺の学力を合わせてしまったのかは定かではない。



とにかく、通う学校は近いに限る。忘れ物は取りに帰れるし、良く寝られるし、遅刻もしないし、



「遅刻だぞ、日比野」



前言撤回。遅刻もたまにしかしないし。



「今日で土日を挟んで5日連続だな」



前言撤回。人間とは不思議なもので、近いと近いなりに遅刻するものである。



「5日連続遅刻達成者には、特典がある」



どんよりと曇り空の広がる6月半ば。

校門で仁王立ちする生徒指導の逢坂哲男(アイサカテツヲ)先生が嬉しそうに0円スマイルを放つ。ちなみにここでいう0円とは、某ファストフード店のような爽やかイメージではなく、文字通り“無価値”という意味での0円である。



「なんでしょう。粗品ならいりませんが」



「反省文の原稿枚数が6倍になるぞ。喜べ」



「は!ろ、6倍!?」



400字詰めの原稿用紙が、実に12枚分。文字数にして、あー、とにかくすごい量じゃないか!



「単なる寝坊が理由なのにそんなに書けるわけないですよ!」



「仕方ないだろう、そういう校則なんだから。そもそもこんな規則を適用するような生徒が出ること自体まれなんだよ」



諭すともなだめるともつかない口調で、気だるそうに俺に語りかける逢坂は、まぁ、アレだ。文学的表現は特に思いつかないが、ひたすらウザかった。



「そんなバカな校則、あってたまるか!」



「いち教師として、可愛い生徒に言って良いものか分からんが、敢えて言おう。『バカはお前だ』」



そう言って俺の頭をピシャリと叩いたのは、二つ折にした原稿用紙の束だった。



「さっさと教室に行け。1限が始まってしまう。反省文は明日の昼休みが締め切りだからな。遅れるんじゃないぞ」



「…御意に」



逢坂先生のウザ─もとい、爽やかスマイルを背に、俺は小走りで教室に向かった。