「はぁ…間に合った…」



息を整えながら、机の間を通って最後列に移動する。



と、視界の端の窓際、最前列。



“クラス首席”東條さゆみさんの姿があった。ただ東條さんは何か黙々とノートに書き込みをしていたようで、俺の方など見てはいなかった。



まァ、いいけどね。特別仲良いワケじゃなし。美人なのは認めるけどな。



“最バカ”の指定席に戻ると、俺を迎えてくれたのは隣の席の永野啓一と前の席の泉アリサ。



「おはよう、大吾」


「おぉ、おはよう」



「…HRからあんたの目障りな顔見なきゃいけないかと思うと、1日うんざりするわ」


「じゃあ前向いとけ。朝の挨拶と受け取ろう」



アリサの毒舌は今日も健在だな。健康の証だ。



「日比野ぉ、反省文書いたか?」



HR開始早々、担任の稲垣が教卓から野太い声を届けた。



「バッチリ、12枚!」



分厚い原稿用紙の束を掲げ、自慢げに叫び返す。



「はっ?12枚!?なんで!?」



すると稲垣は、でかい体を仰け反らせ、大げさに驚いて見せた。



「5日連続遅刻達成者は、反省文の量が6倍になるって」



「誰が言ってた?」



「…生徒指導の逢坂先生が、そういう校則があるって」



嫌な予感しかしないな。



「…そうか。じゃあ次の連絡いきまーす」



「ちょ、待って!何!嘘なの!?12枚の校則!」



「今朝不審者が出たそうです」



「話そらさないで下さい!」



「特徴は“中肉中背”“黒の帽子”“覗き魔”“遅刻魔”“最バカ”」



「後半俺の特徴っ!」



クラスが笑いに包まれる中、啓一とアリサは深刻な顔。



「わざわざあだ名通りに行動しなくても…冗談だったのに」



「覗いてねぇ!」



「あんたは生きてるだけで不審だもの。“歩く不審者”ね」



「よく覚えとけアリサ。半数以上の不審者は歩く!」



ていうか俺も突っ込みどころソコじゃねぇ!



「とにかく、反省文は昼休みまでだから。昼飯の後にでも持っていけよ」



「くそぉ…なんか腑に落ちないけど、了解です」



稲垣に突っかかってもしょうがない。昼休みに逢坂先生に問いたださなくては。



そんなこんなで、今日も気だるい1日が始まる。