私立心学社学園高等学校。



わが校は国内で最も広く、最も生徒数の多い高校、らしい。


生徒数の多さについては、正直言ってピンとこないが、学校の広さは十分身に染みている。


だって、校門には5分で着くのに、教室まで15分かかるんだから。

そして、そのせいで今日も遅刻しかかってるんだから。



校門に飛び込んで、さらに走る。麻雀部員に体力面の期待をしないでくれよ。



「くそっ、セットした目覚ましが全部止まるとはこれいかに!」



独り言で言い訳したって仕方ない。多分寝惚けて全部止めちゃったんだろうな。



て言うか、6日連続遅刻はさすがにヤバイ。反省文が原稿用紙12枚から、大学ノート1冊分とかになりかねないな。いや、ヘタしたら停学か?あり得るな、俺“最バカ”だし。



2年生用の昇降口は、まるで図書室だ。本棚みたいに巨大な下駄箱の間を縫って、素早くC組のブロックにたどり着く。



あァ、生徒数の多さに、いまピンと来たよ。



俺の上靴のある場所を思い出して。



「クソッ!」



本棚─いや、下駄箱の端に立て掛けてある脚立を引っ張ってくる。



下駄箱の上の方は、手が届かないのだ。



忍者のようにかけのぼり、



「どわっ!?」



足を踏み外す。



「お約束やってる場合じゃないだろ!」



再び脚立を飛ぶように登り、上靴に履き替える。



ポケットから携帯を取り出す。



残り3分。



「ギリ!」



リアクションをとる時間すら惜しい。とにかく走る。



階段を3段飛ばしで2階まで上がると、最初に見えるのが2年δ(デルタ)組。



「なんでA組からじゃないんだよ!」



逆の順番で教室が並んでいるので、2年C組は奥から3番目だ。



ここから200メートルはあるんじゃないか?分からんけど。



「諦めるな、俺!風になれぇっ!」



床を蹴って、最後のダッシュ。残り時間わずか。


δ、γ、β、α組を駆け抜け、

Z組を過ぎ、

Y組、X組、W組、
V…
U…T…S
R、Q、P、O…
NMLKJI…!
H、G、
F…E…!
D組…!



「だぁっ!」



思いっきり開けたのは、教卓側の扉。



キーンコーン…



「…セーフ!」



担任の稲垣がOKサインをビシッと出した。

ダサかった。