つまり、こういう話だ。



ミッションのとき、ユウ先輩は担当の数学ではなく、学年主任の石川の机を探していた。



石川は英語担当だが、今回テストは作っていない。学年主任は各学年の教師団を統括・監督する立場だから、忙しいのだろう。



ユウ先輩は真っ先に石川の机を見つけると、カード入りの便箋を机のよく使いそうな引き出しに忍ばせた。



「こーんなカード。アニメとかで見たことないか?」



ユウ先輩はカバンから、A6サイズのカードを取り出して、部員に見せた。



「あっ、なにこれ、可愛いー!」



ユウキちゃんが目を輝かせる。



リボンの絵や金銀のラメでキラキラ装飾された、パッと見バースデーカードみたいな厚紙だ。



右下のところにデフォルメした筆記体で、“MJB”と記してある。



「怪盗の予告状みたいですね」

進が興味深そうにカードを覗き込む。



それで?
なんて書いたんですか?



「“貴公の職権に関わる行い、特に女子生徒への指導の態様を改めなさい。しからずば、貴公の固く守り続ける内心の機密が、明るみに出ることになりましょう”っつって」




「ふっ…」

アリサが吹き出したのを皮切りに、麻雀部が一斉に爆笑に包まれた。



「ハハハ!最高だろ?」



ユウ先輩も笑いながら、みんなに同意を求めた。



俺も腹を抱えて笑いながら、ユウ先輩の凄さを思い知る。



この手紙の内容。



まどろっこしく書いてはいるが、簡単に言えばこうだ。




「セクハラをヤメロ。さもなくばお前のカツラ疑惑をバラす」。



こんな内容の手紙なんて、単純に石川に送りつけても、タダのイタズラだ。相手にもされないのが普通。



ただ、今回はミッション失敗によって、泥棒集団の存在が認識された。職員室で話題になるほどにな。


あの時の放送で“怪盗団MJB”を名乗ることで、予告文の送り主との同一性を印象付け、脅迫文の真実味を強めてるんだ。



ミッションが万事うまくいってたとしたら、イタズラで片付けられてそれでおしまい。



つまり、これはミッション失敗に連動して発動する、いわば第2のミッション。



じゃあ、あのしょうもない放送も、ユウ先輩の単なる思い付きではなく。



計画の範囲ってこと。



うーん…
やっぱり、ユウ先輩はすごい。



味方で良かった。