「あの、先生」

「ん?なんだ」


「…えーっと、僕の席は…」

「あァ、好きな方座っていいぞ」




ついにやってしまったらしい。



1年の1学期から座り続けてきた“最バカ”の席。



俺の指定席が。


湯川の席になった。



「俺…退学になったんですか?」



教壇に戻ろうとした稲垣がズダンっ!と転んだ。



「今日が実は俺の最後の授業で、突然のクビは余りに不憫だから、たまたま休みの誰かの席で受けろと」



「どれだけ暴君だ、ウチの校長は!?」



「俺の席に、啓一が勉強したときは必ず“準バカ”だった湯川が座ってるってコトは、そういうコトじゃ…?」



「違う。正真正銘、そこがお前の席だ。廊下の貼り出し見てないのか?」



見てないよ。



見ないで毎回座ってるし。
毎回同じ席だったからな。


「…いいか?お前の今回のテストのクラス成績は、50人中、43位。だからソコの席。以上。分かったらさっさと席着け!」



そう怒鳴って、稲垣は再び教壇に戻っていった。



…それで?



つまり、アレか?



この窓際の席が、俺の席ってコトか?



休んだ誰かの席じゃなくて?



…マジで?



…ホントに?



「…先生」


「なんだ」


「コレ…アレですか?ドッキリ」



スコンッ!


「あぅっ」


瞬間、真っ白なチョークが俺の額にクリーンヒットした。



「シツコイ!早く席座れ!」



「…ハイ」



見せ物じゃないぞ。
こっち見んなオマエラ!



クラスメイトの好奇の視線を受けながら、座るのは最後尾の窓際の席。



稲垣がHRを再開したのを見て、ふぅ、と息をつく。



…それにしても。



どうやら本当らしい。



今回、俺の期末テストの成績は、



驚くなかれ。
50人中、43位。



なんと、7番も上がってしまった。



全校規模で見れば、概算で200人以上をゴボウ抜きしてしまったことになる。



信じられん。



日本史と世界史は、確かにちょっと上がったケド。



2教科合わせてほんの30点か40点だぜ?



バカ席…どんだけだ。



とにかく、だ。
なんか、勉強が功を奏して、



俺は、
“最バカ”から、
解放された。