「あー、もう限界」



ペンを乱暴に置いて、机を立った。11枚と半分。あとは家で書こう。



「直紀、替わって」



名前を呼ばれた杉山直紀は雀卓を離れ、ふらふらと俺の方へ歩いて来た。



「助かった…」



満身創痍の声色で、直紀は俺の座っていた机にガタリと音をたてて突っ伏した。



「何回フリ込んだ?」



「…8回。うち満貫3回、ハネ満1回」



「お前な。捨て牌よく見ろよ」



「へぇい…」



ボードゲームごときでそんなにも疲弊するもんかね。とにかく最下位の直紀は疲れ果てたようで、小さく返事をすると死んだように動かなくなった。



「お、これでやっと面白くなるな」



ユウ先輩がいたずらっぽく笑って俺を見た。



「今まで『笑いが止まらねぇ』っつってたじゃないですか」



冷静に進が突っ込むと、啓一もクスクスと笑った。



「杉山はまだ始めて2ヶ月だしな。実力がある程度近くないと、ゲームにならない」



「確かにアレは、ゲームではなく後輩いじめでしたね」



そう言いながら、俺も空き席に座って雀牌の整理を手伝った。あァ、この手触りがたまらん。



「仕方なくないか?あんな見え見えの手に片っ端からフリこんじまうんだから」



「まだ役も覚えきってませんしね。自分がアガることしか考えてないし」



ユウ先輩の弁明に同調するように、進が自分の手牌を揃えながらぼやいた。



「ま、ボロ負けも勉強でしょ。じゃあ始めますよ」



親の啓一が牌を一枚捨てて、2回戦が始まる。



「こーんにーちわーっ」



と、その時。教室の扉がガラリと開いて、女子生徒がひとり入ってきた。