ザザザッ。

“おう、色男。今ドコよ?”


ユウ先輩が、心底楽しそうに声を届けてきた。



「2階の選択教室です。あの放送、先輩ですか」


“ご明察”


やっぱな。
なんだよ、ドラゴンアイズって。
中2か。



“お陰で降りてこれたでしょ?”


今度は啓一だ。楽しそうだな、お前も。


「1階にまだ警備員がうろうろしてるから、まだ動けないけどな」


「啓一くん?」


横からアリサが、俺の無線機に割り込んできた。


“あァ、泉さん”


「みんなそこにいるの?」


“うん、実働班はみんないるよ”


「ごめんね、アタシのせいで」


俺に謝れっ!


“いやいや。無事で良かった”


「とにかく、落ち着いたら脱出します」


アリサから無線機を取り返して、そう伝える。



“気をつけろよ、何かあったらまた連絡入れる”


ユウ先輩のそのセリフを最後にプツンと通信が途絶える。



「はぁ…」


力が抜けたように、アリサが座り込む。


それを見て、俺もふぅ、と、息をついた。




ユウ先輩の謎の放送のお陰で、テンパった警備員たちは残らず1階に降りて行った。



お陰で俺とアリサはなんとか2階までは降りてこられたんだが。



いかんせん騒ぎが大きくなりすぎたのか、1階の警備員たちがなかなか警備室に帰ってくれない。



それどころか、潜入経路の窓も押さえられてしまったようだ。



現状、俺たちには待機しか道が残されておらず、たまたま鍵の開いていた選択教室に身を潜めることになっている。



「このまま騒ぎが収まってくれるといいんだけど」



言葉の端々に疲れをちらつかせて、アリサがぼやいた。



「そうだなァ…」



教室の黒板の上に掛けてある時計を眺める。



午前1時。



そろそろ眠くなってきたな…。



無意識にポケットに手を入れる。



ガサリとテスト用紙が音をたてた。



あーあ。
結局テスト用紙を首尾よく奪還出来たのは何人だ?
多分、俺とアリサと…ユウ先輩くらいだろうか。


ユウ先輩は確認してないけど、なんか成功してる気がする。



しかし…5~6教科じゃあ秀才席はムリだろうな。