トン、トン、カチッ。



雀卓の上で牌をさばく音が、教室に響く。



この軽快なリズム、牌がぶつかる乾いた音と、あの雀牌の手触りがたまらない。



空いた机に座って、7枚目から改めて反省文を書き始めるが、ものの1行か2行で手が止まる。



「…もう書くことないぞ」



「ただの遅刻で6枚書けただけでも凄いと思いますよ。はい、リーチっと」



「あ、杉山。それロン」



「うげっ!またですかユウ先輩!」



直紀がうめく。調子いいみたいだな、ユウ先輩。



「ダブトン三色ドラドラドラ。すまんな杉山」



「エグすぎる!イカサマしてません!?」



「してない。18000点だ。さっさと点棒よこせ」



くそぉ、と得点棒をごっそりユウ先輩に渡す直紀。不憫だな。ていうか、ユウ先輩強すぎ。



「もう、あとは適当に書いたら?どうせ先生も12枚全部は見やしないでしょ」



ジャラジャラと雀牌を整理しながら、啓一が言った。



「そうだなぁ…」



カラ返事をしながらも、ペンを進める。早く書き終わって麻雀してぇ。



「そもそも、あんな家近くてなんで遅刻するんだよ。“最バカ”で“遅刻魔”で“覗き魔”なんて、卒業までに絶対彼女できないぞ」



進が呆れ声で言った。“覗き魔”って。M組にまでプロローグの一件は伝わってるのか?とんだ有名人になったものだ。誰かが触れ回ってやがるのかな。



「“覗き魔”って、啓一先輩がこの前言ってたヤツですか?双眼鏡の」



「お前か!」



俺は思わず消しゴムを啓一の頭に投げつけた。



「痛いなぁ、なんだよ大吾」



「しょうもないあだ名を進や直紀に教えるのはやめてくれ!辛うじて保ってきた俺のイメージが崩壊しかかっている」



「いいじゃん、別に。本当に大吾が覗き魔だったら“覗き魔”なんてあだ名は付けられないよ。生々しくて」



鬱陶しそうに頭をさすりながら啓一が反論する。台詞にトゲがあるのは気のせいか?まぁいい。



「そもそもその名前は1ヶ月も前の中間の時に付けられたやつじゃないか。6月の月例テストも終わったし、コンタクトも変えた。諸悪の根源であるにっくき双眼鏡も使うことはないんだ」



「あ、話途中で悪い。ツモ」



『マタ!?』



ユウ先輩の一言に、部員全員が合唱した。