体育祭。
種目は2年男子100m走。

まもなく最終組がスタートラインに立つ。


その中に彼はいた。


私が彼を意識し始めたのは4ヵ月前。

友達に付き合ってバスケ部の試合を見に行った時、フリースローを決めた彼のことが何だか無性に気になった。

真っすぐゴールを見据えたあの真剣な目は、今も脳裏に焼き付いている。

彼にハマるのはあっという間だった。


「彩ちゃん? どしたの? タオル握り締めて」

「え……? あ、ううん、何でもない!」

隣にいた子のひと声で、無意識に握り締めていた手を慌てて緩めた。


「やっぱり岩崎君の圧勝かな。陸上部エースだし」

隣の彼女が誰に言うでもなく呟いた。


そう。

彼の隣にはすごい人がいた。
今度の総体への出場が決まっている岩崎君。
彼の親友。


勝率は最初からわかっていた。

それでもこの勝負に賭けたのは、勇気が欲しかったから。

もし、無謀だと思われる彼の1着が現実になったら……

彼が頑張ったら、私も頑張ろうと思った。


――勝率は最初からわかっていた。

彼が勝てなければ、彼に声をかけなくていい。

今までどおり、彼を見つめているだけでいい――



スタートラインに影が並ぶ。


そして

スタートの合図とともに

彼らは走りだした―――