私たち神様は人間とは違って、生まれつき魔力を持っている。ってお父様が昨日おっしゃっておりました。だけど、私…はっきり言ってそういうのって
「あんまり信じてない方なんだよね。」
少女達の話し声が広い中庭をうめた。
「リリア!またそんな事ばかり言って…」
「またまた~!アリサったら真面目ちゃんだなぁ‼」
少女はそういいながら漆黒の髪を揺らし、口いっぱいに紅茶を含んだ。
「でも、私はリリアと同感だな。」
さっきまで、無口だった少女が口を開いた。
「だって神様なんて自由ないじゃん!」
「やっぱ!マリアもそう思う⁉」
二人は笑い声をあげながら、目の前にあるクッキーを口に放り込んだ。すると、アリサは言った。
「まあ、まだ私たちが14歳なだけで、あと二年もたてば私たちも立派な神様なのよ!」
「うま~‼‼」
「…って聞いてないし!」
アリサはため息をつくとティーカップを手に取り、一口飲んだ。


───私は、今はこうだとしても神の位についたら…誰かが…。


「ね~!アリサ‼」
「……えっ‼」
「うそー!聞いてなかったの⁉」


───私たちはこの時、全てを知らなかった。あの頃の私たちは。


 ***


 科学的には運命を変える事は不可能だと言われるだろう。でも、この世界は違うのだ。神に選ばれた者だけが運命を変えられる。

 とある男は黒い衣装を身に纏い暗闇のなかをひたすら歩いていた。もちろん、暗闇ではなにも見えないはずなのに、男は歩き続けていた。男は途中で足を止めて、何もないはずの暗闇でまるで扉を開くかのように手を動かし始めた。すると闇の中にもう一つの輝きを放つ世界が現れた。たくさんの自動車が走る音、人の叫び声、ざわめく人混み、そしてその路面には、真赤な血が滲む。辺りは血生臭い匂いに包まれていた。それが風に乗り、暗闇の空間に充満する。すると、男は言った。
「かわいそうに…。病気持ちで苦しむ次は事故だなんて。」
そう言うと、うっすらと微笑みその映像のような世界に手を伸ばす。そして、男は血に塗れた娘の手を引いた。娘はみるみるうちに暗闇の中へと導かれた。その瞬間に光る世界は静止した。すると、男はスポットライトで照らされた。それに合わせて優しげな曲が流れ出す。男はそっと歌い出した。それは、とても明るく優しい旋律だった。すると、娘の傷が塞がり出す。男は笑い声ながらにこう言った。
「君は、こうして選ばれ生き返る事ができた。生きている事を幸せに思いなさい。」
娘はゆっくりと目を開き、優しく微笑んだ。すると男は娘をそっと抱きかかえ、もとの世界へ導いた。その瞬間に異世界への扉は閉ざされた。
「お父様‼あれが人間界というものなんですね?私、とっても感動しました。」
少女の拍手と同時に、暗闇に明かりが灯った。さっきまで暗かった空間には無数の座席があり、その一番後ろに人の少女の姿があった。怪しげな笑みを浮かべながら、拍手をしているのだ。
「館長…。いや、お父様!とても素晴らしかったです。」
そう言うと少女は小さな足を組み、ピンクの頬を掌に乗せて肘をついて笑っていた。その少女の肩には黒猫が乗っていて、少女は黒猫の頭を撫でながら実に楽しそうにしている。少女が立ち上がると、たくさんのレースがかぶさった黒いドレスがふわりと揺れた。
「まあまあ、落ち着け。リリア。」
少女は黒く長い髪を揺らめかせ、漆黒の瞳をキラキラと輝かせていた。その様子をみた男は、ため息をつき苦笑しだした。
「今日から、お前も仕事だ。リリア!この映画館に招待する人間をくれぐれも間違えないように……。」
男がそう言うと、少女は嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「お父様!私、頑張りますわ!」
そう言うと、少女は慌ただしく部屋を飛び出して行った。男はその光景を笑いながら眺めていた。


───もう、私の仕事はまじかに迫っている。しっかりやらないと!


 ***


 「きゃああぁぁ!」
女の悲鳴が響き渡る。路面は一面紅く染まり、十代の若い女性が倒れている。その数メートル先には血のついた車が停車している。彼女は車に跳ねられたのだ。




……ああ、私は死んだのかもしれない。




────きっと死ぬ直前…誰でもそう思うよ…。