意識が戻った時には、見渡す限り田んぼに囲まれた道を歩いていた。車が通れるほどの幅はないけれど、この辺りでは一番広い道のようだ。
 辺り一面薄暗い。でも、明け方なのか暮れ方なのかはわからない。
 しばらく歩き続けると、脇道に佇む二人の人の姿が視界に入ってきた。近づくにつれ、なぜか嫌な予感がする。母親と息子らしい。二人ともこちらに背を向けうつむいていて、表情はうかがえない。
 いつか歴史の教科書で見た写真の中から出てきた人物のようだ。母親は薄汚れた継ぎはぎだらけの縦縞の絣の着物を着ている。子供の方も継ぎあてズボンにランニング一丁といった格好だ。いつの時代かはっきりと言い当てることは難しいにしろ、現代のように着物を晴れ着としてではなく、古くなってもすぐに捨ててしまわず縫い直したり、繕ったりして着ていた時代は、そんなに遠い昔のことではないはずだ。
 服装から判断して貧しいことは言うまでもないけれど、それ以上に注意を引くのは、死人のように白い女の顔だ。ひどく病んでいるようだ。
 二人の体はすーっと道を滑るように移動してきた。
 女が近づいてきて、うつむいたまま消え入りそうな声で言った。
「------どうかこの子のことを宜しくお願いいたします。もうすぐ七つのお祝いです」
 そう言い終わった時、真っ赤な口でにやりと笑った。
 由理阿は胸が締めつけられるような圧迫感を覚え、こめかみがずきずき痛んだ。
 次の瞬間、金縛りに遭ったようにぴくりとも動けなくなった。
 そんな状態でも、頭脳は機能していた。この女が沙羅と一緒に見た、白い着物姿の女と同一人物だということには気づいていた。
 そのうち、男の子も近づいてきて、女の横に並んだ。
 二人はうつむいたままひそひそ話しを始めた。二人とも立っているというよりも道の少し上に浮いているように見える。
 怖くて怖くて一刻も早くその場を離れたかった。でも、体を動かそうと必死にもがいても、指一本動かせない。
 助けて! 誰かあたしを助けて!
 声にならない悲鳴を上げていた。